親愛なる読者の皆さま
業務効率化ラボの第12号をお届けします。本号では、「属人化を防ぎ、組織の成長を加速させる文書化の力」をテーマに、具体的なアプローチと実践的な手法を紹介します。
前号までで、Notionを活用したナレッジベースの構築についてご紹介してきました。今回は、そこで培った知識をもとに、業務プロセスの文書化を活用して知識の共有と標準化を進める具体的な方法を解説します。
「優秀な社員が退職してしまい、その人しか知らない業務が山積みになっている...」 「新入社員の教育に時間がかかりすぎて、自分の業務が回らない...」
このような悩みを抱えている経営者の方は少なくありません。しかし、これらの問題の本質は、「単発の仕事」を「再現可能なプロセス」に変換できていないことにあります。
組織は、単発の仕事を繰り返し可能な仕事(プロセス)へと変えていく努力を常に行う必要があります。これには重要な理由があります:
プロセスの文書化は、単なる「組織の資産づくり」ではありません。それは、以下のような形で、従業員の日々の業務に直接的なメリットをもたらします:
すべての業務プロセスを一度に文書化することは現実的ではありません。そこで、パレートの法則(80:20の法則)に従い、「80%の結果をもたらす重要な20%のプロセス」に集中することが重要です。
文書化すべきプロセスを選定する際には、以下の3つの観点から評価を行います:
プロセスが組織にもたらす影響を評価することは非常に重要です。具体的には、売上や利益への直接的な影響、顧客満足度の向上、業務効率の改善など、多角的に考慮します。
影響度の高いプロセスを優先的に文書化することで、組織全体の効果を最大化できます。例えば、受注から出荷までの一連のプロセスは、売上に直結し、さらに顧客満足度にも大きな影響を与えるため、優先順位が高いと判断されます。
日常的に実行される業務や、定期的に発生する重要タスク、そして複数の部門で共通して行われる作業は、文書化による効果が高くなります。例えば、在庫確認や会計処理のような日常業務は、その頻度の高さから特に文書化の恩恵が大きいです。これにより、プロセスの効率化や時間の短縮が期待できます。
この先、そのプロセスがどのように変化する可能性があるかは、判断基準として非常に重要です。たとえば、頻繁に更新されるITシステムを利用したプロセスは、変更が多く文書化の優先度を下げるべき場合があります。
一方、販売や請求といった基幹業務で長期間安定しているプロセスは、文書化の効果が高くなるため優先的に対応すべきです。また、来月変更される予定のプロセスを文書化することは無駄になりやすいため注意が必要です。
これらの3つの基準を総合的に評価することで、限られたリソースを最も効果的に活用することができます。例えば、影響度が高く、頻繁に実行され、かつ安定的なプロセスは、最優先で文書化すべき対象となります。
業務効率化の効果が高いプロセスを選びましょう。
具体的には、毎日の定型業務や複数人が関わる作業、エラーが発生しやすい業務などが候補になります。「このプロセスを効率化できれば、大きな効果が得られる」と考えられる業務から始めると良いでしょう。
また、前述のように、近い将来に大きく変更される予定があるプロセスは、文書化の優先度を下げることを検討してください。
選んだプロセスの全体像を明確にします。
まず、そのプロセスに必要な情報や道具(入力)、プロセスを実行した結果できあがるもの(出力)、そして期待される品質基準を書き出します。その上で、入力から出力までの具体的な作業手順を時系列で整理します。
各ステップには、必ず実施者が1人になるように気を付けることが重要です。この段階では、現場の担当者に実際の業務の流れを確認することが重要です。
プロセスの運用方法と手順書を作成します。
まず、Asanaで繰り返しタスクとして設定し、担当者、期限、チェックリストなどを含めた実務的な運用ルールを決めます。例えば、営業活動のフォローアップや定期的な顧客訪問スケジュールを設定すると効果的です。
次に、Notionで詳細な手順書を作成します。手順書には、プロセスの目的、具体的な手順、注意点、トラブル時の対応方法を含めます。たとえば、在庫管理のプロセスで、発注から在庫確認までのフローを細かく記載することが推奨されます。作成後は、両者をリンクさせて、実務とマニュアルの一貫性を確保します。
文書化したプロセスの実用性を確認します。
プロセスをよく知らない社員に、作成した文書とタスク設定だけを頼りに実際の作業を行ってもらいます。
その後、テスト担当者、現場担当者、管理者で集まり、手順の分かりやすさ、実務との整合性、想定外のケースへの対応、効率性などを評価します。この評価に基づいて、必要な修正を行います。例えば、説明が曖昧な箇所に補足を加えたり、作業フローに新しいステップを追加したりすることが有効です。特に、テスト担当者からの「分かりにくい」という指摘は、重要な改善のヒントとなります。
完成したプロセスを組織に導入します。
関係者全員に新しいプロセスを周知し、必要に応じて簡単な研修を行います。運用開始後は、現場からのフィードバックを随時受け付け、四半期に一度程度の頻度で内容を見直します。
プロセスは完璧な形で完成することはありません。使いながら改善を重ねることで、より良いものに育てていきましょう。
世の中には、プロセスマネジメントツールという繰り返しタスクを管理するために特化したツール(例:Process Street, Pipefy)があります。しかし、組織が大きくないうちは、AsanaとNotionで充分対応できます。プロセスの文書化と運用には、各ツールの特性を活かした使い分けが重要です。
業務プロセスの文書化を成功させるためには、具体的で実践的な行動指針が重要です。本セクションでは、プロセス文書化の実現にあたってのポイントを3つに絞り、分かりやすく解説します。
組織に属するメンバーは、全員が代わりのきく人になるべきです。誰でもその業務を引き継げる状態にしておくことが重要です。自分の仕事を自分の元にだけ繋ぎとめようとする人が存在するのは、その組織のためになりません。そのような行動は厳重に対処すべきであり、海外のある組織では、そのような動きをした従業員を解雇するという規則もあります。
プロセスが文書化されていれば、役割をローテーションすることが可能になります。もし何らかの事情で役割のローテーションができない場合には、少なくとも年1回の頻度で組織内の主要なプロセスの点検を計画することが重要です。
同じことを2回行った場合には、そのタスクを定型的なプロセスとして認識し、文書化することを検討するべきです。最終的には、自動化や他者への委任という形で業務が整理され、効率が向上します。
今回のニュースレターでは、属人化を防ぎ、組織の成長を促進するための文書化の重要性と具体的な手法について解説しました。全員が代わりのきく体制を作ること、役割のローテーションやプロセスの定期的な点検を行うこと、さらに繰り返される業務を文書化し整理することが、組織の持続可能な発展に直結します。
さて、本号をもちまして、一旦ニュースレターの連載を終了いたします。過去12回にわたり、Slack+Asana+Notionを活用した業務効率化基盤の構築について解説してきました。これまでの内容は、以下のリンクから振り返ることができます。
ニュースレター版「業務効率化ラボ」 |
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改めて、これまでご愛読いただきありがとうございました。
今後も、不定期とはなりますが、業務効率化や事業成長に役立つ情報をお届けできるよう努めてまいります。引き続き、皆様の成功に寄与できる内容を発信していきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
業務効率化ラボ運営チーム